現代アンデスの儀礼世界 |
2015年9月19日
講師:木村秀雄(東京大学大学院教授)
場所:東京外国語大学本郷サテライト
本日は長年実施してきたアンデスの儀礼世界の調査の中から3例の報告をする。
まず、アマレテの農耕儀礼コア(qoa)について。
アマレテはボリビア、ラパス近郊のカラバヤ地方の集落である。スーチェス川流域の斜面にあり、その農地は海抜2500mから4300mにわたる。集落は3850mにあり、3500m以下はトウモロコシ、3500m-4100mにジャガイモ、それより上は牧草地という耕作体系である。コアは集落全体の儀礼で、伝統的役職者が主催し、プレアデスが東に見える11月ごろに実行する。
「庭の儀礼」では村の男は壁の前に一列で並び、女は円陣を組んで各自持参したスープを男の村人全員に分配する。食べ残しは村人各自の妻の鍋に戻して持ち帰る。多くの家から持ち寄ったものを一か所に集め、また再び分配するという形になる。
「リャマの供犠」では谷中の泉の水を集め、その水でリャマを煮て、全員で分配して持ち帰り、残った骨を持ち寄って埋める。これも分配と集中の儀礼である。
「喜捨集め」では老人に村内を回らせて喜捨を集め、応じた村民に肉の分配をする。
「山の儀礼」は、村の北のとがった山と、南のまるい山に登って供物を捧げる。
こうして2週間近く儀礼が続き、儀礼終了後にジャガイモの作付けを行う。
第2はパンパラクタ・アルタの家畜増殖儀礼について。
クスコ県カルカ群パンパラクタ・アルタの地形は西は開けた乾燥した斜面、北は閉じた湿潤な谷であり、かってワスカルの領地であったといわれ、この集落はジャガイモを5000ha栽培している。元来散居村であったが、電気の導入に伴い、便利になった中心に集住するようになった。離村者が少ない伝統的な村落である。
家畜増殖儀礼は2月と8月に行われる。2月は雨期やカーニバルの月で豊穣の月、乾季の8月は欠乏の月である。
儀礼は屋外では家畜囲いにアルパカなどの家畜を集め、数え、家畜同士の疑似結婚式を行う。屋内ではコカの葉、ワイン、花弁、動物の形の呪物などの供物を布の上に並べ、家長が主催して伝統的な決まりに従った手続きが行われる。間違いは許されない。その地で有力な霊(apu)を呼び集め、すべての家畜、すべての牧草を呼ぶ。新規のアプがあれば喜ぶ。音楽は男は笛、女は太鼓を奏でる。
第3はワルキの結婚式について。
クスコ県カルカ郡ワルキ共同体で調査したもの。ワルキはかって家畜泥棒村として有名であった。
彼らの結婚は事実上の結婚、数年後に正式な結婚と2回に分けて行われる。この間は妻の両親への奉仕の期間である。正式な結婚は役所届出、教会での結婚、共同体での結婚と3回の手続きを行う。
共同体での結婚式は、屋外に差し掛け小屋を作り、新郎新婦と2組の仲人の6人が離れることなく終日座る。トイレも全員一緒にゆく。訪問者が祝儀を捧げたり、親族が歌や踊りを披露したりする。夜になると新郎新婦は作物小屋に閉じ込め、他は帰宅する。これを1週間続け、最終日に6人でジャガイモの植え付けを行う。
以上の3例は当事者のみの行為で、共同体以外の人々特に白人は興味を示さない。
これらの儀礼がいつから始まったのか、キリスト教の影響を受けているかどうかは分からない。ただ、彼らは全員敬虔なカトリック教徒であり、キリスト教の儀礼もまじめにこなしている。