アンデス、メソアメリカ関係図書紹介 |
山本 紀夫編著 京都大学学術出版会 624頁 2007年3月 5,200円+税
“秘境アンデス”といわれるが、今では紀行、旅行案内、文明史解説等の文献やテレビ番組などでかなりの情報が手に入るようになった。しかし、アンデスがあまりに長大で広いため、その多様な環境、人々の暮らしなどを理解するのは、依然として容易でない。
本書は「アンデス高地とはどのようなところなのか」という疑問に答えるべく、研究対象地域や分野を異にする文化人類学研究者12人による、現地調査をふまえた総合的な解説書である。
第1章アンデス高地とはどのようなところなのか、第2章高地に花ひらいた農耕文化、第3章特異な牧畜文化の展開、第4章アンデス高地の民族誌と、アンデスの自然、歴史、農業と作物、リャマ等アンデス独特のラクダ科動物との関わり、漁業、農牧、商業の生業と宗教などについて詳細に解説している。第5章アンデス高地の諸相では、同じく高地での生活を行っているヒマラヤとの比較、アンデス社会の変容を、最後にアンデスのエコーリズムの現況と未来を紹介している。
専門家による大部な解説書だが、写真や図表も多用されていて、一般の読者が読んでも
分かりやすく、かつ興味深い。
〔桜井 敏浩〕
〔『ラテンアメリカ時報』 2007年夏号掲載 (社)ラテン・アメリカ協会発行〕
『完璧な赤 ―「欲望の色」をめぐる帝国と密偵と大航海の物語』
エイミー・B・グリーンフィールド 佐藤 桂訳 早川書房 2006年10月 390頁 2,000円+税
1519年、コルテスたちコンキスタドーレス(征服者)はアステカの市場で欧州にもないような素晴らしい赤色染料を目にする。大昔から上層階級の衣服や画材として神聖視されてきた赤色は、発色が大変難しい色だったが、それらに優るこの染料は、実はウチワサボテンに寄生するコチニール(カイガラムシ)だった。欧州に送られ大評判になり、スペインに多大な収入をもたらせたこの新大陸産染料は、原料産地はもとより、それが植物性なのか動物性なのかすら明かされず、英国の海賊がスペイン船団を襲撃する時の重要目標の一つになり、フランスの植物学者が危険を冒してヌエバ・エスパーニャ(メキシコ)に潜入するほど、人々が目の色を変えて追い回す貴重品になった。
スペイン植民地統治時代の古文書研究者である著者が、欧州における“赤色”の文化史から、スペイン人によるコチニールの“発見”、欧州と新大陸での需給をめぐる変化などを、史実にもとづいて詳述している。歴史小説のように面白いノンフィクション。
〔桜井 敏浩〕
〔(社)ラテン・アメリカ協会 Webサイト 「ラテンアメリカ参考図書案内」に収録〕
『世界の食文化 ⑬ 中南米』
山本 紀夫編 (財)農山漁村文化協会 2007年3月 296頁 3,200円+税
ラテンアメリカは、トウモロコシ、ジャガイモ、サツマイモ、ピーナッツ、トウガラシ、トマト、カボチャなどの穀類、野菜、香辛料、カカオ、パイナップル、パパイヤ等の果実類や嗜好品のタバコ、コカなど、実に多くの原産地であることは知られている。この広大な地域に、先住民、欧州からの征服者、植民者やアフリカから連れてこられた奴隷、東欧、中東、アジアを含む世界各地からの移民など、様々な文化が融合して多彩な食文化が展開しているのだが、日本では部分的にしか知られていない。
まずは、トウモロコシ、ジャガイモ、マニオク(マンジョカ/ユカ)という三大主食、コロンブス到達以前と以後の食文化の変化、戦前の農村部を中心にしたブラジル日系人家庭の食生活を解説しているが、大きな部分を占めるのは、17カ国20地域の食文化と酒の紹介である。ラテンアメリカの主要国(ペルーやアマゾンは、さらに地域を区分している)はもとより、中米やカリブの島嶼国の知られざる食文化、醸造・蒸留以前の製法で作った酒、メキシコのテキーラや同じサトウキビを原料としながら製法に違いがあるラムとブラジルのピンガ、移住者が持ち込んだワインに至るまで、現地で長く生活した24人の広範な分野の人たちによる解説は、それぞれが読み物としても興味深い。
〔桜井 敏浩〕
〔『ラテンアメリカ時報』 2007年夏号掲載 (社)ラテン・アメリカ協会発行〕
『講座 世界の先住民族 ―ファースト・ピープルズの現在― 08 中米・カリブ海、南米』
綾部 恒雄監修、黒田 悦子・木村 秀雄編 明石書店 2007年1月 335頁 4,800円+税
第1部中米・カリブ海ではメキシコのウィチュルなど 7族、グアテマラではキチュなど 2族、ドミニカのカリブ、第2部の南米ではチリのマプーチェと都市のインディオであるチョロ、ボリビアのアイマラ、パラグァイのグアラニー、ペルー・アンデス東斜面のアシャニンカ、ブラジルのパノ系先住民、そしてベネズエラのヒビという、この地域の13カ国・地域に居住する17民族を、17人の文化人類学者が取り上げ解説している。
メキシコ以南のラテンアメリカ、カリブには、現在3,000~4,000万人の先住民が居住するといわれているが、それぞれが多くの共同体を形成し、それぞれの地域で異なる歴史をたどり、その結果として現在の姿も大きく異なっている。また、近年はボリビアにおける先住民出身のモラエス大統領の出現に見られるように、先住民運動を指導してグローバリズムと対峙するなど、あらためて先住民族の動向が注目されるようになった。
異なる地域を専攻し様々な研究テーマをもつ研究者が、それぞれの民族の生き様を活写しており、編者の丁寧な解説も付いているので、大部な本であるが特に予備知識がなくても関心をもった項を拾い読みすれば、それなりに興味深い読み物になっている。
〔桜井 敏浩〕
〔『ラテンアメリカ時報』 2007年春号掲載 (社)ラテン・アメリカ協会発行〕
『雲の上で暮らす ―アンデス・ヒマラヤ高地民族の世界』
山本 紀夫 ナカニシヤ出版 2006年12月 389頁 2,600円+税
アンデス民族学研究者で、『インカの末裔たち』(日本放送出版協会 1992年)、『ジャガ
イモとインカ帝国』(東京大学出版会 2004年)、『ラテンアメリカ楽器紀行』(山川出版社
2005年)の著作があり、これまで40年間のアンデス、そして近年はヒマラヤ、チベット、
エチオピア調査を続けてきた著者(国立民族学博物館教授)の、両地域に住む高地に暮ら
す人々の姿を描いた集大成。
ジャガイモ原産地を求め、クスコから200kmも奥に入った標高4000mのマルカパタ村で
本格的な現地調査を始め、通算10年にわたるアンデス等世界の高地での滞在を通じて、自然環境、その過酷な条件の中で営まれる農牧などの生業、祭りなどの実体験を綴った、高地で暮らす人々の生活のフィールド・サーベイ記録。現地再訪により、時の流れのなかで起きている変容もまじえ、民族学に関心のある読者には特に興味深い。
〔桜井 敏浩〕
〔『ラテンアメリカ時報』 2007年春号掲載 (社)ラテン・アメリカ協会発行〕
『グアテマラを知るための65章』
桜井 三枝子編著 明石書店 370頁 2006年9月 2,000円+税
“神秘のマヤ文明遺跡”で知られるグアテマラは、マヤ以降スペインの征服と植民地時代、独立
後の中米連邦の結成と解体、米国の経済支配を経て、米国系バナナ農園をはじめとする大土地所有制を覆そうとした農地改革の挫折、これに続く軍政に対するゲリラ蜂起は、結局36年間に及ぶ悲惨な内戦となった。
24人の文化人類学、言語、歴史、文学、宗教、中米政治、経済学、染織・服飾、文化交流の研究者等による、人・自然・地理、マヤ文明、歴史、現代の政治・経済・人権問題、マヤ言語・文学、宗教・祝祭・文化、文学、市場、芸術・観光に至るまでの網羅的な解説によって、古代、近代、そして現代にわたる、小国ながら多彩なグアテマラのすべてが理解できよう。
〔桜井 敏浩〕
〔『ラテンアメリカ時報』 2007年冬号掲載 (社)ラテン・アメリカ協会発行〕
『世界遺産の町 クスコで暮らす』
すずき ともこ 千草書房 157頁 2006年11月 1,300円+税
カリフォルニアの大学に留学し、マチュピチュを見るつもりで訪れた、インカが“世界の臍”と呼んだ古都クスコが気に入って住みつき、気がついたら10年が経っていたという著者の、クスコで生活している人でなければ書けない、楽しいエッセィ集。旅行社経営やTVコーディネーターなどのかたわら、アンデス高地先住民の文化習慣などを、『アンデス、祭りめぐり』、『アンデス奇祭紀行』 (いずれも青弓社発行)でも紹介してきている。
暖房機器を使わない住環境での防寒対策、意外に多彩な日常の食事、インカの精緻な石積みの上に日干しレンガを厚く積み上げた家の問題など、海抜3,400メートルのクスコでの衣食住環境もさることながら、著者ならではのアンデス先住民の呪術や祭り、生活の中にとけ込んだ慣習は興味深い。
〔桜井 敏浩〕
〔『ラテンアメリカ時報』 2007年冬号掲載 (社)ラテン・アメリカ協会発行〕