パコパンパ遺跡発掘調査2015 |
講師 関 雄二 国立民族学博物館教授
場所 東京外国語大学本郷キャンパス
12月の国立民族学博物館教授 関雄二氏の講演は、古代アンデス社会の早熟さと文化的完成度をあらためて私たちに知らしめるものであった。関教授らにより10年以上にわたって行われたペルー北部高地のパコパンパ遺跡における発掘調査では、これまでにも「パコパンパの貴婦人」の発見(2009年)等の偉業が繰り返されてきたが、今回の「ヘビ・ジャガー神官の墓」の発見(2015年)は、形成期後期という至って早い段階で、すでに社会階層が出現しつつあったことを裏付ける、アンデス考古学史上初の直接的な証拠を与える快挙となった。
この「ヘビ・ジャガー神官の墓」という名前は、一部重なるようにして安置された2体の被葬者に伴って出土した、極めて独特な鐙形土器の形状に由来している。この土器はペルー北部の同時代の遺跡からこれまでに見つかっている鐙形壺の胴体のように球形ではなく、全体がずんぐりとしたヘビの形に模して作られている。その胴部には、ボアと呼ばれる地元に生息する巨大ヘビの体の模様を表現していると思われる菱形文様が刻まれ、内部はクロスハッチの刻線で埋め尽くされていた。さらにこのヘビの頭部はジャガーのような牙をむいたネコ科動物の頭として形作られていた。
同じく目を見張る出土物として、籠目状に加工された金製の中空の玉31個と、涙型をした金製のペンダントヘッド1個、それに用途は不明ながら盛るように置かれた色とりどりの鉱物の粉が挙げられる。前者の金製品(計32パーツ)は、もとはひとつの華麗な首飾りを構成していたものとみられる。というのは、これらのパーツが、埋葬された2体のうちの一方の人物の首および下顎を取り巻くように出土したからである。じつに精巧に作られた金製の玉の一つひとつが、当時の高度に発達した金精錬加工技術を証明している。他方、同じ人物の頭部近くで発見された鉱物パウダーの埋納コンテクストもまた、パコパンパを取り巻く形成期のペルー北部高地で行われた宗教儀式を探るうえで貴重な資料を提供しているものと言えよう。
このように、パコパンパはアンデス社会の形成期後期の時点で、すでに社会階層が誕生しつつあったことを立証する類まれなる遺跡として、これからのアンデス考古学研究の発展に向けての一里塚を成すものである。