アンデス・メソアメリカ関係の本 『チャスキ』 46号 |
2012年12月
桜井 敏浩(会員)
『ペルーを知るための66章 【第2版】』
細谷 広美編著 明石書店 2012年2月 380頁 2,000円+税
2004年1 月に出た初版の改訂版。「Ⅰ最初のアメリカ人からインカまで」でモンゴロイドのアメリカ大陸到達からインカ帝国の成立とその統治システムまでの先史を、「Ⅱ征服、独立、国民国家への道」では、インカ征服から植民地時代を経て1963年までの近代国家に至る歴史を、「Ⅲ 現代ペルーの政治と経済」では軍事革命前後からフジモリ政権の末路から初の先住民系であるトレド大統領の登場まで、「Ⅳ 自然環境とその利用」はアンデス原産の作物と高度差を利用した農牧業の姿を、「Ⅴ 多様な人種と文化」では先住民のいまなお残る多彩な宗教、音楽、文学などの文化を、「Ⅵ日系人社会の歩み」では日本人移民の歴史からデカセギに至るまでを、各章3~18 章の短いながら内容の濃い解説が並ぶ。
ペルーに長く関わってきた考古学、民族学、歴史、現代政治、中南米文学、社会学の第一線の研究者がそれぞれ執筆しているが、改訂版では4章が追加され、現代政治経済では第2期ガルシア政権による経済成長とウマラ左派政権の登場、1980年代に跋扈した左翼テロリストと軍警の対峙の中であった殺戮の究明、グローバル化の進展による在外ペルー人をめぐる動きについての解説が収録されている。
本誌の読者が関心をもつプレインカ史はアジアからのヒトの移動から文明形成、形成期の神殿建設と地方文化の発展、王国の拡大からインカ帝国の成立、その諸制度の仕組みや世界観、続くスペイン人の侵攻と植民地化の歴史が懇切に解説されており、ペルーをより深く、より広く知るための手頃で有用な解説書になっている。
『人類大移動 アフリカからイースター島へ』
印東道子編著 朝日新聞出版 2012年2月 262頁 1,400円+税
20万年前にアフリカで生きていたホモサピエンス(新人)が、現代の人類のすべての祖先であることが明らかになった。昨今の遺伝学の目覚ましい発展により、過去の人骨からDNAを復元することで、ネアンダルタール人とクロマニョン人が混血し、ホモ・モビリダス(移動する動物)として、ユーラシア北部の酷寒の地から中南米の南端まで、さらにはイースター島のような絶海の孤島にまでヒトが住むようになった。この間の先史人類大移動という壮大なドラマを、移動を可能にした背景と類人猿との比較、大移動の歴史、それを可能にした能力、他集団と遭遇した際の交流を明らかにしたのが本書である。
まず700万年前にアフリカで誕生した猿人が、森から草原へ移動することで直立二足歩行となり、知能を高め道具を使うことで生き延びた原人たちはアフリカを離れ移動、拡散が始まる。さらにその後登場した新人は、旧人が超えられなかった過酷な自然条件の地、寒冷地や海洋にも進出する。ユーラシア北部を東に向かったグループはアメリカ大陸に移動して、2万年前後に南下する。また、かなり早い段階から移動や生活手段に様々な工夫をして長距離航海を行い、海を渡って東南アジアやポリネシアへも移動している。
現世の人類がどのような遺伝的関係を持っているか?なぜ人類がかくも広範囲に、異なる環境の中でも移動出来たか? 移動の中で他集団との出会いと交流がどうだったか? そもそもなぜ人類はアフリカを出たのか?など、人類の大移動の軌跡とその間の環境順応、道具などの工夫による進歩に関わる疑問を、全8章と6つのコラムで、考古学、古地理学、古生物学、古環境学、人類学、遺伝学などの分野の13人の研究者が論考を展開している。
『メキシコ -世界遺産と音楽舞踊を巡る旅』
さかぐちとおる 柘植書房新社 2012年10月 175頁 2,000円+税
メキシコは、世界遺産の数では世界で6番目に多く、古代遺跡やスペイン植民地都市のコロニアル建築など見るべき観光資源に恵まれているが、こういった物質的なものばかりではなく、地域ごとに郷土色豊かな民俗音楽や舞踊に代表される多様な文化に溢れている。本書は長く中南米や南欧の民俗音楽や舞踊を探求してきた著者が、メキシコの世界遺産になっているコロニアル都市やスペイン征服者到来前の古代文明の遺跡、各地の民俗音楽や舞踊の魅力を紹介した楽しい本である。
メキシコの多彩な文化探訪の旅は首都から始まり、都心にアステカ遺跡が遺るソカロ、ベジャス・アルテス(国立芸術院)での民俗歌舞公演、郊外のテオティワカンティの巨大なピラミッドなどの都市遺跡、個性ある造りの教会が建ち並ぶプエプラ歴史地区や、メキシコ湾岸にあってカトリックの祭礼で音楽舞踊が見られるベラクルス州を訪れる。ついで結婚祝宴の祝い楽団から始まったマリアッチと蒸留酒テキーラ発祥の地ハリスコ州を皮切りに中央高原の各地を周り、最後にモンテ・アルバンの遺跡のある南部オアハカ州や先住民の多いチアパス、ユカタン州でマヤ文明の遺跡とより民族色の強い伝統舞踊を見る。
それぞれに著者の紀行記と沢山の写真が載っていて、読者はメキシコを旅している気分を味わうことが出来るが、返す返すも残念なのは色彩豊かな各地の民俗衣装を着た舞踊の写真が、表紙と口絵を除いてモノクロになっていることである。