『チャスキ』 55号 『フンボルトの冒険 -自然という<生命の網>の発明』 |
『チャスキ』 55号 アンデス・メソアメリカ関係の本
2017年 6月
桜井 敏浩 (会員)
『フンボルトの冒険 -自然という<生命の網>の発明』
アンドレア・ウルフ 鍛原多恵子訳 NHK出版 2017年1月 502頁 2,900円+税 ISBN978-4-14-081712-4
今から200年前に、5年にわたって南北アメリカ大陸を踏査したドイツ出身の自然科学者アレクサンダー・フォン・フンボルトの伝記と、彼の論考によって大きな影響を受けた人たちを紹介することによって、現在の我々の世界観の一部になっている、フンボルトが発見した自然概念の今日的意味を明らかにしている。
1799年にベネズエラ東部に上陸、リャノス(大草原)を南下しオリノコ河を遡航し、コロンビアからアンデス山脈を南下しリマに至る約4,000kmを旅して、エクアドルでは当時世界最高峰と見なされていたチンボラソ山の登頂を試み、地質、気候、植生や動物やインカの建造物などあらゆるものに興味を示し、この旅の後に寄ったメキシコを含めて古代文明の偉業に感銘を受けて古文書や遺跡をスケッチし、先住民と交わりその言語をも記録に遺した。
欧州に戻って以降多くの紀行記、報告書、論文を発表し、それらを通じて自然が個々の構成要素から成っているのではなく、それぞれが互いに結びついた「生命の網」であるとする自然観は、南米をスペイン植民地支配から解放したシモン・ボリバル、南米等世界各地を調査し『進化論』を纏めたダーウィンはじめ、科学者・学者・作家、政治家など多くの人たちに共鳴され影響を与えたことを後半で解説している。著者はドイツで幼少期を過ごした英国の作家・歴史家。