『チャスキ』 55号 『アンデス文明 -神殿から読み取る権力の世界』 |
『チャスキ』55号 アンデス・メソアメリカ関係の本
2017年 6月
『アンデス文明 -神殿から読み取る権力の世界』
関 雄二編 臨川書店 2017年3月 480頁 7,900円+税 ISBN978-4-653-04319-5
アンデス文明の形成過程での権力の生成を解明するため、わが国の考古学者は60年間近く調査研究を重ねてきた。その過程で独自の画期的仮説として提示されたのが、余剰食糧生産力を前提要件とした祭祀建造物の建設という従前の定説を覆した「神殿更新説」であり、本書はその流れを継承しながら究明に残された問題点や課題の解明を、編者(国立民族学博物館教授)が中心になって2005年以来ペルー国立サンマルコス大学と共同で発掘調査に取り組んでいる北部高地のパコパンパ遺跡の成果として集大成したものである。
これまでは考古学的手法を用いながらも文化人類学の枠の中で進めてきたのに対し、近年では科学の諸分野の専門家も加わり横断的に分析・比較する方法が採られている。本書においても、遺構建築からみた権力形成、自然環境における神殿の位置付けから始まり、土器・骨角器・金属器等遺物の製作、消費、廃棄、動物骨からのその利用、埋葬人骨、食料分析などの調査をふまえ、同じ北部山地のクントゥル・ワシや海岸、中間点の遺跡調査結果と比較し、アンデス文明の権力生成を明らかにしようとしている。今や形成期研究は、山地・海岸・中間地、そして中心センターばかりでなく地方センターの視点から相互・連関・権力関係を見ていくという姿勢が求められているが、このパコパンパ遺跡研究はその一つの到達点を示すものと自負出来ると結んでいる。