続・古代アンデス食文化の考古学 |
近年、欧米におけるペルー料理への高評価についてペルーの著名シェフ達は、その背景に先植民期から存在する様々な環境帯に由来する食材の垂直統御に基づく「多様性と歴史」の存在を指摘する。高地のキヌア、ユンガスの果物、唐辛子、沿岸部の魚類等である。
多くの中南米地域では、先住民食文化は存在感を失い欧州やアフリカ系食文化が中心となった。ペルーの場合、高度な先住民文明と世界各地から流入した文化の多様性が存在する。まずアラブ系のアルファホーレス、アフリカ系の香辛料を使った内臓料理、フランス系のスフレ等がある。19世紀には、イタリア系のバジルを多用したソースやパスタ、次に中国系移民の醤油、米食文化に炒め料理や麺が流入。最後に日系移民が鮮魚料理でティラディート、セビーチェ等の誕生に貢献した。
歴史文献を紐解くと塩の塊の回し舐めの習慣があったことやインカ庶民が、食事を地面に置いて食べたことが判る。王や貴族は、小さな椅子に座った様だが基本的な食事の要素で庶民との間にそれ程大きな差異は、無かったらしい。
形成期の遺跡で解体痕のある犬の骨が出土しており饗宴で犬を食べていたと思われる。その後イヌ肉食が消えた背景には、インカ族がこの習慣を禁じた事やイヌ肉食をタブーとするスペイン人の価値観が背景にありそうだ。前回紹介したモチェの二段重ねの料理では上段にピーナツ、下段にイモ等を置いたらしい。
歴史家達は、クロニスタの記述からインカ庶民は蹲踞(そんきょ)姿勢で座って食事をし、女性が男性に酒を注いでいたと推定している。本格研究は、これからだが、モチェやナスカのモチーフから、当時の食時の作法、男女の役割分担等が判ると思う。
古代アンデス食文化研究は、歴史学が中心であった為、考古学研究は少なくスペイン人の文化的バイアスがかかっている。歴史学が書き残したくない事でも考古学では、暴かれる。今後のペルー食文化史の研究課題は、先インカ期食文化の考古学的アプローチだと言える。