『チャスキ』56号 『古代メソアメリカ周縁史』 |
『チャスキ』 56号 アンデス・メソアメリカ関係の本
2017年 12月
桜井 敏浩 (会員)
『古代メソアメリカ周縁史 -大都市の盛衰と大噴火のはざまで』
市川 彰 渓水社 2017年2月 233頁 6,000円+税 ISBN978-4-86327-380-1
古代メソアメリカ文明は、現在のメキシコ北部からコスタリカ西部に至る範囲で興亡を繰り返したが、その中心はマヤ、テオティワカンの大遺跡であり、グアテマラ以南は周縁文明としてとかく調査研究の対象からは蔑ろにされてきた。しかし、周縁文明の解明も合わせ行うことなしには、古代メソアメリカ文明の解明は限界があるとして、著者(2003年から青年海外協力隊員としての期間も含めて毎年エルサルバドル往訪)はエルサルバドルのチャルチュアパ遺跡(紀元前400年~紀元後1100年)を中心に調査を続け、遺跡の編年再考により歴史の連続性を、物質文化の変化により先古典期から古典期への社会変化の胎動を、中心文明との接触を通じて周縁文明の集団・個人の主体性と独自性,周縁社会の特質の考察により、新たな古代メソアメリカ文明の側面を理解しようとしている。特筆すべきは、先スペイン期から度々あった火山の噴火のうち、特に420年頃のイロパンゴ火山の大噴火のこの遺跡へのインパクトと災害復興にも章を割き、災害考古学という視点から考察していることである。
著者の長い現地調査の成果である精緻な図版等多くのデータも掲げられており、精力的な研究姿勢が感じられる労作である。