『チャスキ』 56号 『インディオ社会史』 |
『チャスキ』 56号 アンデス・メソアメリカ関係の本
2017年 12月
桜井 敏浩 (会員)
『インディオ社会史 -アンデス植民地時代を生きた人々』
網野 徹哉 みすず書房 2017年9月 400頁 5,500円+税 ISBN978-4-622-08630-7
インディオ(あえてその負の歴史性を想起するため使用)とその混血者は、スペイン征服者に対しては敗者、被支配者であり、進んだ西欧文化に対するに文字を持たない言語で先住民文化を伝承する奴隷的従属状態に置かれた者たちという二元的な見方をされることが多いが、スペイン人に負けない経済力を持つ者、スペイン語を操り、押しつけられた法制度やキリスト教に立ち向かう者たちもいた。それらを遺された歴史文書を丹念に多彩な切り口から解析することで、植民地時代を生きたインディオの姿を浮かび上がらせている。
インカの地方共同体首長に従属していたヤナコーナが、植民地時代になってどう生きたか?公文書に遺された征服者と先住民の間を取り繋いだ通辞による言葉の意味、リマのコパカバーナの聖母の落涙奇跡と先住民集住化政策、聖母信心講にみるインディオの司法への挑戦、植民地社会を生きたインディオ作成の遺言書をめぐる司法闘争、教会による偶像崇拝根絶巡察とインディオ文化の抵抗、異端審問対象の女呪術師たちの呪文にみる民衆的インカ表象、インカ史を担う王族の末裔とその歴史を簒奪しようとする非インカ系の人々との攻防、それとは無縁な民衆的インカなど、インディオの人々の様々な姿を知ることができる。文末の解題で、著者の研究累積、真摯な歴史文書へ向き合う姿が詳述されている。