『チャスキ』 56号 『インカ帝国探検記 -ある文化の滅亡の歴史』 |
『チャスキ』 56号 アンデス・メソアメリカ関係の本
2017年 12月
桜井 敏浩 (会員)
『インカ帝国探検記 -ある文化の滅亡の歴史』
増田 義郎 中央公論新社(中公文庫) 2017年2月 257頁 1,000円+税 ISBN978-4-12-206372-3
1524年に黄金帝国の噂を聞きつけたピサロたちがその征服を謀議するところから始まり、多くの困難を乗り越えてインカ帝国の北端に辿りつく。インカは諸部族との抗争に打ち勝ち領土拡大を実現したが、第11代ワイナ・カパックが遠征中に、スペイン人の到来より早く伝染してきたビールス性疾病により病死、その跡目相続を異母兄弟が争う事態になっていた。この内紛状態に180人の兵士と数十頭の軍馬で上陸したピサロがつけ込み、奸計によってアタワルパを捕虜とし莫大な身代金を奪った後に処刑してしまう。ピサロは1533年にクスコに入りインカを征服、スペインの植民地として基礎を固めた。
この間の征服者とインカの動きを追った、小説と見紛う活き活きとした情景描写はあらためて歴史の面白さを教えてくれるが、丹念な史料群研究によって裏付けられた歴史叙述である。本書は1961年に中央公論社から出版、1975年、2001年の中公文庫の改版。著者は東京大学教養学部時に1959年のわが国アンデス文明考古学の皮切りとなった泉 靖一東大教授のアンデス調査団に参加、クロニカ、公文書、教会、司法の文書研究を行い、『大航海時代叢書』(岩波書店)はじめ多くのラテンアメリカ史に関する論文、研究書、訳書や一般向けの解説書を執筆、2016年11月に他界された。