マヤ文字で名前を書いてみよう-マヤ文字とことばの特徴 |
2015年7月18日(土)
講師:八杉 佳穂
(国立民族学博物館名誉教授)
場所:東京外国語大学本郷サテライト
マヤ文明は、独自の文字を持つ文明として3世紀から記録を書き残した歴史を持つ、世界的に見ても稀有な存在である。しかもマヤのことばは文字の伝統こそラテン文字に取って代わられたとはいえ、その話し手の子孫にあたる謂ゆるマヤ民族は現在もなお800万の人口を擁している。
今日のマヤ諸語は一般に30余りの言語に分かれるとされ、また同じ言語でも地方ごとの差違がある。いずれも同一のマヤ祖語から別れてきたものと推定されている。個々の言語同士の差はお互いに全く意思疎通が不可能な程度から、一言語の方言と言える程度まで多様な開きがある。
彼らの言語であるマヤ語は音韻や文法の面でも特徴的であり、とりわけ日本語の母語話者から見ると極めて対照的といえる性質を持っている。以下にその主な相違点を挙げる。
・マヤ語 vs 日本語
・清音:声門閉鎖音 vs 清音:濁音
・閉音節(CVC) vs 開音節(CVCV)
・主要部有徴言語 vs 従属部有徴言語
・能格言語 vs 対格言語
・動詞が最初VOS vs 動詞が最後SOV
このように異質性の目立つマヤ語と日本語であるが、こと文字に関する限り、むしろ相似た面が多く認められる。マヤ文字の構成原理は漢字に類似しており、一字が四角のマスに収まるように配置され、一字を構成する内部の文字には読み順がある。字体は全身字体・頭字体・幾何字体の三つがあり、相互に置き換え可能である。マヤ文字は各文字の形状に様々なヴァリエーションがあり、マヤ人は一つのテキストの中で同じ形の文字を繰り返すことを避けるという美意識を持っていた。マヤ人やメソアメリカの人々が文字を発達させたのは歴史を記すためであり、暦の記録が最も古い。マヤ文明はこうしたメソアメリカ文化圏の東端に位置し、西方から多くの文化要素を取り入れた。マヤ文字にしても、ちょうど日本人が漢字を受け入れて日本語を表記できるように改良したのと同様に、西方の文字を導入して独自の改良を加えたものと見ることができる。