アンデス、メソアメリカ関連図書情報 |
アンデス、メソアメリカ関連図書情報
桜井 敏浩
『古代アンデス 権力の考古学』
関 雄二 京都大学学術出版会 2006年1月 315頁 1,800円+税
スペイン征服者の到来前に南米太平洋岸に展開した古代文明は、紀元2,500年位から祭祀を執り行う神殿等の公共建造物や宗教的な図像が造られ始め、紀元前後には北部のモチェや地上絵で知られるナスカなど、各地に世俗的な権力の発生や戦いがあったとみられる「形成期」と呼ばれる地方色豊かな文化が花開く。紀元後600年前後からはティティカカ湖畔のティワナクが南高地に、中央アンデス一帯にワリが広く影響を及ぼし、1000年頃になると地域色の強い地方王朝がいくつも現れ、ペルー北部では強大なチムー王国が成立するが、やがて南高地から出たインカが中央アンデスの覇権を握る。
本書は30年余にわたりアンデス考古学の第一線で研究に取り組んできた著者が、これらの時代における社会と権力という観点から、形成期における前国家段階と最初の国家といわれるモチェ社会を比較することで明らかにしようとしたものである。多種多様な構成員から成る社会で、支配者による権力の行使と被支配者の反応を考古学的に明らかにしようという、新しい考古学のアプローチを基本とした本書は、著者の実際の豊富な調査発掘体験に基づく分析の裏付けがあって説得力がある。
〔桜井 敏浩〕
〔『ラテン・アメリカ時報』 2006年3月号掲載 (社)ラテン・アメリカ協会発行〕
『マヤとインカ ―王権の成立と展開』
貞末 堯司編 同成社 2005年9月 322頁 12,000円+税
先コロンブス期のメソアメリカとアンデス地域に存在した多岐にわたる諸文化について、この地域での調査の第一線で実績を上げている日本人研究者20人が論じたものであり、最新の考古学研究の成果の集大成となっている。
第1部の中米編では、オルメカ等の先行文化における王権と政治体制、ティオティワカンの起源と「政権闘争」、コパン建国と古典期マヤ王権の成立、低地マヤにおける王権の研究や古代マヤの洞窟利用など、13本の論文が掲載されている。第2部南米編では、先史アンデス文明形成期における社会発展モデルと統合過程、非国家社会であったペルー北部カハマルカ地域の社会統合再考、ナスカだけでない海岸部各地で制作された地上絵の変貌、インカ期の中央と地方の関係や統治形態と象徴システム、人間の犠牲など7本のそれぞれ興味深い論文が収録されている。
半世紀にわたる日本の新大陸古代文明研究の成果を踏まえて、次世代を担う研究者が確実に育ちつつあることを実感させる気鋭に満ちた内容ばかりである。
〔桜井 敏浩〕
〔『ラテン・アメリカ時報』 2006年2月号掲載 (社)ラテン・アメリカ協会発行〕
『古代マヤ 石器の都市文明』
青山 和夫 京都大学学術出版会 2005年12月 341頁 1,800円+税
この十余年前まで、マヤ文明には熱帯雨林のなかにあって、儀式や天文などで高度な文明を保ちながら、突然崩壊した「神秘で謎」の文明というイメージが一般的だった。しかし、近年の遺跡の考古学調査とマヤ文字の解読、図像学、人類学、民族学、植物学や土壌学などの諸科学との学際的な研究によって、マヤの文明観を他の世界の古代文明との共通性や比較などを行い得るところまで、その実態分析は長足の進歩を遂げた。
金属器を実用に用いることなく、大河による大規模灌漑農業や食料に大きな割合を占める家畜はなく、人力エネルギーだけに依存していたマヤ文明を、従来のマヤ考古学が軽視してきた石器の膨大な数の分析を通じて、まさしく石器の都市文明であったことを明らかにしているが、天文や数の知識、精緻な暦、マヤ文字だけでなく、熱帯雨林の多様な生態環境を巧みに利用した農業においても卓越した知識を有していたのである。
しかし、マヤ文明の衰退が、都市人口の増大によって農業が厳しい環境の中で持続性を失ったことから始まったことを想起すると、マヤ研究は現代地球社会の諸問題の解決の糸口にもなると説く筆者のマヤ文明観は大いにうなずけるものがある。
〔桜井 敏浩〕
〔『ラテン・アメリカ時報』 2006年3月号掲載 (社)ラテン・アメリカ協会発行〕
『アマゾン源流生活』
高野 潤 平凡社 277頁 2006年1月 1,800円+税
1973年以来アンデス高地に通い続け、アンデスの写真家として数多くの写真集や紀行を発表している著者は、この山系の下に広がる熱帯低地にも興味をもち、アマゾン源流地帯に足を踏み入れるようになって、この10年ほどは毎年乾期に2ヶ月近くをペルーアマゾンで過ごしている。
アマゾンでの生活は、多くの困難と危険がともなう一方で、何度通っても新たな未知との遭遇の尽きぬ面白さ、甘美な刺激は、また懲りずに足を向けさせる魅力をもつ。蚊、蟻、蜘蛛、ブヨ、ダニなどの昆虫の攻撃、毒蛇や、風土病、白い闇といわれる豪雨、落雷などの自然現象、河川の遡行を妨げる段滝や流木などをかわしつつ続くキャンプ生活では、食用果実の採集、魚釣り、狩猟や現地料理など先住民、地元の熟達者が培ってきた知恵を活用することが必要不可欠だが、本書は、これまでのアマゾン紀行や解説にはない実践的な生活の知恵、経験、うんちくに満ちており、多くの写真とともに大いに楽しめる。 〔桜井 敏浩〕
〔『ラテン・アメリカ時報』 2006年4月号掲載 (社)ラテン・アメリカ協会発行〕