『チャスキ』 55号 『コロンブスの不平等交換 -作物・奴隷・疫病の世界史』 |
『チャスキ』 55号 アンデス・メソアメリカ関係の本
2017年 6月
『コロンブスの不平等交換 -作物・奴隷・疫病の世界史』
山本 紀夫 KADOKAWA(角川選書)2017年1月 246頁 1,700円+税 ISBN978-4-04-703592-8
コロンブスの到達を契機に始まった交流によって、新大陸原産の作物や果実などが旧大陸へ伝えられ、反対に旧大陸からは新大陸にはなかった砂糖黍やコーヒー等の作物や天然痘などの疫病がもたらされた。これらの相互移転によってそれぞれの大陸で重要な食料等が生まれたことを指して、「コロンブスの交換」という言い方が使われている。一見等価交換のように思えるが、実はそれは旧大陸を一方的に利する不平等交換ではなかったのか?という疑問から、コロンブスの交換の功罪を作物、家畜、疫病の観点からの分析により、その実態を明らかにしたのが本書である。
農学を修めアンデス等高地での長年のフィールド調査を行ってきた著者(国立民族学博
物館名誉教授)ならではの、トウモロコシやジャガイモが食用作物として改良され、欧州やアフリカ、アジアまで伝えられて重要な食料源となったこと、サトウキビの大農園栽培方式が持ち込まれ、その労働力として奴隷制が長く続くことになったこと、牛馬の渡来によって北米やパンパ等の先住民の生活圏が入植移民によって奪われたこと、そして征服者・植民者の行った残虐行為によって殺された人数より遙かに多い疫病の災禍があったことを考察し、「交換」の不平等さと食用作物の改良への先住民の貢献の無視を糾弾している。